いじめの政治学
本日は精神科医・中井久夫先生の著書からの紹介です。どうしていじめは起こるか?いじめの手口を教えてくれる学校も塾もありません。どこで、子どもたちは、巧妙ないじめについて学ぶのでしょうか?それは、日々の大人が示す社会から学ぶのです。それは何のためか?「権力欲」のためと著者は記します。子どもの社会は権力社会という側面を持ちます。家庭や社会の中で権力を持たない子どもは、自分たちの子ども社会でそれを求めてしまうのです。そして、いじめはいじめは一定の順序を経て進行していき、その順序はとても政治的に巧妙であります。いじめはその時だけでなく、生涯にわたってその人の行動に影響を与えるほどのものです。
いじめの線引き
どこからがいじめなのか?いじめとそうでないものとの間にははっきりと一線を引いておく必要があります。その一つの判断基準が、「立場の入れ替えがあるか?」です。鬼ごっこでも、荷物の持ち合いでも、立場の交換である相互性があればよく、なければいじめです。いじめは下記のような3つの段階を経て進行していきます。
①孤立化
いじめの対象であることを周りや本人に認識させていく段階です。「孤立化作戦」です。大勢の前で今いじめられているのはこの子とみんなが分からせるためのPR作戦です。孤立していない人間は時たまいじめに合うかもしてませんが、立ち直る機会があります。しかし、持続的ないじめの対象となると、最終的には本人ですら「自分はいじめられても仕方ない人間だ」と思うようになり、常に周りを警戒してゆとりののない状態となっていきます。
②無力化
孤立することで、大幅に力を失うことになります。しかし、まだ諦めてはいない。そこを無力化作戦により、反撃は一切無効であることを教えられていきます。反撃すると、それは倍返しされたり、反撃しても誰も味方になって助けてはくれないことを繰り返し味わせます。孤立化の段階で、大人の助けを得ることができなかった子は、大人にも助けを求めることもできず、そうすることによる反撃を恐れて行動が取れなくなっていきます。
③透明化
透明化の段階は、周囲の眼に見えなくなっていく段階です。この段階まで進むと、被害者は孤立無援であり、反撃することも、助けを求めることもできない自分が嫌になってきており、自分の誇りを失いつつあります。その場にいるのに、無視をされ透明のように扱われることほど苦しいことはありません。いじめに遭っている時の時間は、それがいつまでも終わらないような感覚を持ちます。いじめられなかったから今日はラッキーだったとすら思うようになってしまします。自分はちっぽけな存在だと思うようになります。この段階で大人が介入しようとしても、本人はいじめの存在を否定するかもしれません。それが彼らにとって、最後の尊厳でもあるからです。そのような自分の尊厳の回復としての手段がいじめによる自死という選択に悲しい選択をさせてしまうのかもしれません。
大人が子どもたちにしてあげられることは?
まずは、安全の確保で、孤立感の解消です。できるだけ早い段階で気づき始めの孤立化の段階で食い止めることが大切です。そして、二度と孤立させないという大人の責任ある保障の言葉と、行動です。いじめる側にどんな事情があるとしても、いじめは基本的に悪であり、立派な犯罪です。それを大人側も意識することが大切です。いじられた側は被害者であることを伝え、罪悪感や劣等感を軽くさせていくことが最初の目標となります。各方面からの努力を大人の責任によって行動していくことが、いじめられた子どもの生涯に影響を及ぼす傷への手当ての方法です。
これを読んだいじめに遭っている方へ
もし、あたながいじめられていて、偶然にもこの記事を見たならば私たちに連絡をください。臨床心理士・公認心理師には秘密保持の義務があり、あなたが相談したことは誰にも漏らしません。LINEからふらりと連絡してくれるのでもいいです。あなたのことを心配し、味方になる大人がいることを忘れないでください。
参考書:アリアドネからの糸・みすず書房(1997)、中井久夫